ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

おお牧場はみどりの原詩(日本語訳)

 日本では誰でも知っているチェコスロヴァキア民謡「おお牧場はみどり」は、チェコ語版とスロヴァキア語版があるそうで、内容はまったく違っている。

チェコ語

ほら牧場 広い牧場 その上に草が茂っている 高く茂っている
 私のように澄んだ水が 山から流れ下って
 渦を作って 楓のまわりを廻っている

牧場には二人の娘がいた 哀れな二人の娘がいて泣いていた
 (くりかえし)

城からその娘を見た領主は 家来達を呼んだ
 (くりかえし)

家来たちよ立て 馬をひけ これから戦に行くぞ
 (くりかえし)

さて鉄砲が装備されていなかったら 吾輩はどうしようか?
 (くりかえし)

そうだ 吾輩はそこで狩りをしよう あの十八歳の娘らの
 (くりかえし)

 おそらく、日本語の歌詞「おお牧場はみどり 草の海 風がふくよ」というのはチェコ語版の一番を訳したものだが、続く歌詞を読むと愕然とする。泣いている娘らを助けに行くのかと思いきや、なんとその娘らをガールハント(死語)しようというのである。むろん最初から鉄砲なんか装備してやしないのだ。いや、この場合、別の鉄砲が準備万端なのかもしれないが。


スロヴァキア語版

菩提樹が燃えていた 燃えていた その下に私の愛する女の子が
菩提樹が燃えていた その下に私の愛する女の子が座っていた
 水は山から流れて 私のように速く 楓の周りを回っている

火の粉が彼女の上に降ってきた時 若者達は皆
火の粉が彼女の上に降ってきた時 若者達は皆泣いた
 (くりかえし)※以下同様に、一節目と同義の二節目が続き、リフレイン

一人泣かない奴がいた あいつの彼女への愛は偽物だったのだ

なんで皆さん 私のために泣くの 私は一人っきりじゃない

若者たちよ 泣かないで それより菩提樹のために 火を消してちょうだい

 チェコ語版にくらべればずっと上品だが、娘のことが気になってしょうがない男を揶揄しているのは同じである。娘が火災に遭っているのに助けもせずに涙する若者たち、泣かないやつを冷たいとなじる余裕はあるのに、誰も火は消さない。娘が冷静に「とっとと消しなさいよ」と言うところがオチになっているらしい。

 ちなみに、日本語版はチェコ語・スロヴァキア語から直接訳されたわけではなく、アメリカで歌詞の内容が変わってしまったものが来ているらしい。

歌詞はこの本より引用

スロヴァキア熱―言葉と歌と土地

スロヴァキア熱―言葉と歌と土地

 なお、この本にはポーランド民謡の「森へ行きましょう(シュワ・ジェヴェチカ)」の原詩からの訳も掲載されていた。日本語版は若者が娘さんに「森へ行きましょう、僕は木を切り、君たちは草刈りをして、一緒に働きましょう」と誘っているが、ポーランド語の歌詞ではやはり恋の歌になっている。狩人が森で娘を見初め、娘も狩人を憎からず思っている。ところが娘の前にもうひとり、青い目のイケメンが現れる。狩人が娘をたずねて行くと、娘は喜んでふたりとも家に招き入れる……どんな娘だよ!!!


 スロヴァキア(というか東欧全体が?)では、猥談のたぐいが現代でもごく普通にあけっぴろげになされるそうで、女性の前であろうと、子どもの前であろうと、あまり気にしないそうだ。そういう風土が生んだ歌なのかもしれない。