ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

猩々(参考『本草綱目啓蒙』)

 ショウジョウ。象掌、生々とも。熊人、紅人と呼ばれるものもこれか。日本にはいない。嶺南、交趾(ベトナム)など熱帯に産する。山谷に数百の群れをなして暮らし、人に似て酒を好む。人の姓名、祖先の名字、その家に昔あった出来事などをよく知っている。
 これをとらえるには猩々の通り道に高足駄(下駄)と酒を用意する。猩々はこれを見て自分をとらえる罠だと気づき、しかけた人間の名前を罵りながら叫んで逃げてゆくが、戻ってきて酒を飲む。指を使い、なめるようにして飲むが、すぐに酔いがまわって足駄をはいて笑いながら舞い踊るので、簡単にとらえることができる。西方の国々では猩々の血で毛織物を染める。猩々緋というのがそれである。
 日本に猩々の手と称するものを珍蔵する人がいる。小さくて赤い毛が生え、猩々緋の毛氈のようだ。この手で痘瘡を掻くとよいというので天然痘にかかった人が借りに来る。これは緋援(援はけものへん)というテナガザルの仲間であろうと蘭山は言っている。
 猩々緋という染め物は伊達政宗の陣羽織*1祇園祭の山鉾を飾る深紅の羅紗として現在に伝わっている。古くは猩々の血で染めると信じられていたが、実際にはある種のカイガラムシ*2を使って染めるものである。『…啓蒙』では虫について触れておらず、江戸時代後期においても猩々緋は血染めと信じられていたようだ。
 猩々の名は『山海経』にも見られるが、猿(または豚)に似て速く走り人の名を知るとある。
 蘭山は日本にはいないと言っているが、思うに日本でサトリと呼ばれる毛深い人のような生き物は猩々に近いものではないか。人の心を読む厭味なばけものである。

*1:真っ赤な陣羽織を正宗のものと紹介したテレビ番組を以前見たことがあるが、伊達政宗の陣羽織といえば普通は濃い紫にポップな水玉模様のやつが有名で、それ以外のものを書籍では見たことがない。同時代の戦国武将のものとして紹介されたのを勘違いして覚えているのかもしれない。とにかく真っ赤な陣羽織で猩々緋であると紹介されていたのだけは確か

*2:ケルメスという樫の木につくカイガラムシでヨーロッパに現在も産する。途中から南米のコチニール虫も使われた。ケルメスにつくカイガラムシコチニールに比べると発色が悪いとのこと。この件に関しては、ある本にとても詳しく書いてあったのだが、図書館のあの棚にある、と覚えてタイトルを忘れていたら、いつの間にかアホ図書館が廃棄処分にしたらしく、どこをどう探してもみつからなくなってしまった