ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

罔両(参考『本草綱目啓蒙』)

 音読みならばモウリョウ。『…啓蒙』ではクハシヤ(カシャ?)と訓じている。葬送の時に現れる。現れる時は疾風と急な雷をともない、人々が大騒ぎをしている間に棺の中の屍を持ち去る。棺そのものには異変がないので開けてみるまで誰も気づかない。持ち去られた死体は山中の木の枝や岩の上に放置されていることがある。『淮南子』に見える罔両は水虎のことで同名の別のものだと小野蘭山は言っている。
 クワシヤといえば群馬の昔話にこんなのがある。上州安中の渡辺民部左衛門はクワシヤを切ったことで有名になった。城主の娘が亡くなり、葬列の最中に快晴だった空がにわかにかき曇った。生ぬるい風とともに雷が鳴り始め、なにやら黒いものが空から落ちてくると姫君の棺にとりついた。民部が刀で切りつけると黒いものは叫び声を上げて逃げていった。それから数年後、草津で湯治中の民部の前に謎の山伏が現れる。山伏は民部のとなりで湯につかりながら誰に言うともなく語り始めた。「若い娘の死体をかすめようと思ったことがありましてね。葬列を守っていた武士に、ここを切りつけられたのですよ。あの男の顔は忘れません。きっと仇をとるつもりです」そう言ってふりかえった山伏の額には大きな刀傷があった。まもなく民部は体をこわし、そのまま帰らぬ人になったとのこと。