サイボーグという言葉を最初に漫画に使ったのは、手塚?横山?…ついに決着!!
これまでのまとめ
- サイボーグ cyborg という言葉が考案され、発表されたのは1960年5月のアメリカでのこと。考案者はマンフレッド・クラインズ (Manfred Clynes) 。詳しくはこちらの人力検索をどうぞ>http://q.hatena.ne.jp/1320976407
- サイボーグという言葉を日本で最初に使ったのは、1960年10月17日の朝日新聞夕刊である可能性がきわめて高いです。詳しくはこの記事をどうぞ>http://d.hatena.ne.jp/chinjuh/20111114#p1
- 朝日新聞より先にサイボーグという言葉を日本に紹介した日本語の新聞や雑誌をご存知の方はご一報下さい。
- サイボーグという言葉を漫画に使った最初の人は、手塚治虫、横山光輝、水木しげる のいずれかである可能性が高いです。
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この本に水木しげるの『サイボーグ』という短編が収録されており、こちらでも確認済みなのですが、昭和36年(1961年)としか書かれておらず、何月初出なのか不明です。また1960年というネット情報もあり、はっきりしません。
本題
水木しげるは確認しようがないのでおいといて、手塚治虫の『鉄腕アトム・ホットドッグ兵団』と横山光輝の『鉄人28号・超人間ケリー』どっちが先かの決着をつけておこうと思いました。
どちらも1961年の『少年』という光文社から出ていた漫画雑誌に連載されています。そこで国会図書館へ行き、問題の雑誌を読んだのですが、アトムも鉄人も本誌には数ページのみ掲載され「別冊付録で続きを読もう!」と書かれています。そして、国会図書館には別冊付録がありませんでした。
仕方ないので、本誌に載っている分について、どのコマから始まり、どこで終わっているかをチェックして、単行本(光文社文庫版を使用)とつきあわせて、それが何月号の別冊付録に掲載されたかを割り出しました。
手塚などは単行本収録時に書き直してしまうことがあるので、この調べ方は完璧とは言えませんが、今のところこれ以上どうにもならないので、ひとまず調査結果を書きます。
手塚治虫『鉄腕アトム・ホットドッグ兵団の巻』
ヒゲオヤジ先生の愛犬ペロがさらわれて人間の姿に改造されてしまうというお話です。
ロボット医のポンコッツがアンタ・マリア女王に、犬のようなしぐさをする44号(ペロ)の写真を見せながら次のように言います。
「ごぞんじのとおり、ホットドッグは犬のサイボーグでして…
犬をロボット化したものでごんすから…
ロボットですと人間と戦うことができません
犬なら人間もおそえます
それで犬のサイボーグをつくったのでごんす」
これが鉄腕アトムでサイボーグという言葉が使われた最初です。この台詞以前は、44号のことを一貫してロボットと呼んでいます。鉄腕アトムの世界ではロボットは人間を傷つけられないことになっています。にもかかわらず平気で人間を襲うのはなぜか、それはサイボーグだから(脳が生き物だから)、という種明かしです。これは雑誌『少年』1961年5月号別冊付録に掲載されました(光文社文庫版 第6巻p210〜211)。
翌6月号別冊付録(光文社文庫版 第6巻)にもサイボーグという言葉が出てきます。44号の体を調べたお茶の水博士が「これはきょくたんなサイボーグなのじゃ」と説明するシーンです。
「これはきょくたんなサイボーグなのじゃ
サイボーグというのは人間のからだの一部をロボット装置とかえたものじゃ
なぜこんなサイボーグなんかが必要なのか?
宇宙の生活は なまみの人間のからだではいくら宇宙服を着ていてもとてもたえられないうらいきびしい世界が多い…
だからからだの一部、たとえば心臓とか肺とかを人口のものととりかえて生活できるようにするのじゃ」
サイボーグという言葉が出てくるのは上記二ヶ所で、それ以外のところにはなさそうでした。
横山光輝『鉄人28号・超人間ケリー』
ケリーというのはドラグネット博士の助手の名前ですが、ケリーのミスのせいで実験が失敗してしまい、怒った博士がケリーを改造してしまうのです。サイボーグという言葉が出てくるのは以下の部分のみ。
「あの男は人間とおなじようなはたらきをするロボットの研究をしておったんじゃ
アメリカで発表されたサイボーグというのをしってるか
宇宙人間のことじゃ
すなわち からだの一部をその星の温度や気体にあうように機械化してあるのじゃ
ところがドラグネット博士の研究はもっときょくたんじゃ
死んだ人間の脳をいかして人間とおなじような考えをするロボットをつくろうとしたんじゃ
すなわちからだはロボットで頭だけが人間というわけじゃ」
これは、ドラグネット博士の知人である別の博士の台詞です。サイボーグということばが使われているのは完全にここだけです。雑誌『少年』7月号別冊付録に掲載されました(光文社文庫の続・鉄人28号第3巻 p.28〜29)。
# 肝心のサイボーグという言葉が出てくる部分を書き落としていたので追加しました。
創作じゃない科学読み物ならばこういうのもみつけました
漫画に限っていえば今のところ手塚が最初ですが、『少年』1961年2月号に、巻頭カラー見開き2ページで『月世界をきりひらく 宇宙人間サイボーグス』という科学読み物が掲載されています。文章はだれだかわかりませんが、伊藤展安という人が大迫力の絵を書いています。
さいきん、アメリカで人間のからだの一部をつくりかえて、宇宙旅行につごうのいい新しい宇宙人間をうみだそうという、おどろくべき考えが発表されました。
これはサイボーグスといわれ、どんなわるい状態でも活躍できる人工器官をそなえつけた新しい人間なのです。
この絵はこういうかんたんな宇宙服をきたサイボーグスが高周波発生機という動力をつかって、月世界をきりひらいているところです。もちろん、また地上にかえってきたばあい、サイボーグスはふつうの人間のように生活できるのです。
これが全文です。たったこれだけですが重要なポイントを含んでいます。
まず「サイボーグ」ではなく「サイボーグス」と複数形で書かれていること。「高周波発生機」という動力源について言及していることなどです。これは朝日新聞の記事にはなさそうなので、別の資料を参考にして書いてると思います。