珈琲のルーツ
エチオピア紀元説(六世紀)←十五世紀とする本も
エチオピアの山羊飼いカルディは野原で放牧していた自分の羊が興奮状態で夜になっても眠らないのに気がついた。カルディから相談を受けた修道僧は、放牧地の近くに山羊が実を食い荒らした木を発見する。ためしに食べてみたところ疲れと眠気が消えたため、長いミサのおりに眠気覚ましとして煎じて飲むようになった。これは1671年にレバノンの言語学者ファウスト・ナイロニによる『眠りを知らない修道院』に記されている。
アラビアのバン(十世紀初頭)
コーヒーの実を乾燥させたバンと呼ばれるものを砕いて、水に浸して煎じたものを「バム」と呼んで薬にしていたとの記録があるらしい。アラビアの医学者で哲学者でもあるアビセンナ(アウィケンナあるいはイブン・シーナ、Avicenna)は、十一世紀初頭にバンとバンガムについて薬用であると書き残している。
イエメン紀元説(十三世紀)
イエメンの僧侶であるオシェーク・マールは無実の罪で追放された山で鳥たちが赤い実をついばんでいるのを見た。餓えを癒すために自分でも実を食べてみたところ、疲れた体に活力がみなぎり、体の不調も消えたことから、薬としてモカへ持ち帰った。イスラム寺院で炒ったコーヒー豆を煎じて飲むようになったのはこの頃だと考えられている。これは1587年刊アダブル・カディ著『コーヒー由来書』に記されている。イスラム教徒による記録である。
これらはあくまで文字による記録であり、コーヒーの原産地のひとつであるエチオピアには有史以前から人が住んでいたので、伝説で語られる以前から食用・薬用に使われていた可能性は高い。
なお、世界で最古のコーヒーショップは1554年にコンスタンチノープル(現在のイスタンブール)にオープンした「カフェ・カーネス」だと言われている。人々があまりにもコーヒーに根教するので、酒を宗教的に禁じているイスラム世界では、コーヒーも各地で禁止されるが、後に撤回されたという。
ヨーロッパへの伝来は、1615年ベネチア、1669年にトルコ大使がフランスのルイ14世に献上したなどの記録がある。
インドへの伝来は、17世紀ババ・ブータンがメッカ巡礼の折りにコーヒー豆を盗んで持ち帰り、南インドのマイソールに植えたのが初めと言われている。
参考
『コーヒー味わいの「コツ」』柴田書店
『香り高く味わう 珈琲 おうちがたちまちカフェになる』池田書店