ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

蠅取り紙と猫(参考『耳袋』)

 水洗トイレの普及にともない都市からハエが減りつつある。減りつつあるといってもちゃんといるわけで、決して絶滅するほど減っているわけではないが、くみ取り式便所だった時代に比べれば格段に数を減らしている。
 ハエの数が減ると同時にみかけなくなったのが蠅取り紙である。昔は商店の店先などに、夏になると必ず蠅取り紙がぶら下がっていた。粘着力が強烈に高いクラフトテープのようなものを天井からダラリと下げておくだけのものだった。こんなものでハエが取れるのかと首をひねるばかりだが、たいてい何匹かハエが張り付いていたので、それなりに効き目はあるのだろう。
 この蠅取り紙、ハエばかりか人間もひっかかる。頭や肩でうっかり触れると張り付いて難儀をする。人だけでなく猫もかかる。ぶらさがって風に揺れているのが面白いのか、じゃれている内に落ちてきて、蠅取り紙に絡め取られる間抜けな猫の話をよく耳にする。『赤毛のアン』の続編で『炉辺荘のアン』という話の中でも飼い猫が蠅取り紙にとられた話が出てくる。
 ところで、蠅取り紙はいつごろからあったものかというと、そのルーツはよくわからないが、少なくとも江戸時代にはそれらしきものがあったようだ。『耳袋』に、ハエが多いので「紙にとりもちを塗ったもの」を作って置いたという話が出てくる。そこへ飼い猫登場。まだ幼い子猫だったらしいが、とりもちの蠅取り紙を見て「くるい遊ぶ」うちに体中に紙がからみついた。洋の東西、古今をとわず、猫は蠅取り紙に捕られるものらしい。この猫のその後であるが、飼い主があわてて紙をとってやったが、体中にねばりついたとりもちは洗っても落ちず、糠をふりかけてみてもらちがあかなかった。見るのもうっとうしいので洗濯女に洗い方を聞いて落としたとある。