蚕の割愛、そして産卵
蚕というのは濃厚な交尾をします。メスが尻をあげてオスを誘うと、オスが翅を震わせながら近づいていって、尻と尻とをあわせて結合します。その結びつきは意外とかたくて、ほうっておくと一日でも二日でもずーっと結ばれたままでいます。たぶん、いずれは離れてメスが卵を産みはじめるとは思うんですが、そうなる前に弱ってしまうくらい、長いことまぐわいつづけます。
それで、普通は割愛というのをやります。長いので割愛します、というときの割愛です。尻と尻とでくっついてる蚕のオスとメスを、両手でつまんでねじるようにして引っ張っぱると、ポコッとはずれるんです。これが割愛。愛しあっちゃってる二人を割って離すから割愛です。そうなんです。割愛は養蚕用語だったのです。
26日の朝に羽化して、交尾をはじめたお蚕たちは、27日の朝になっても交尾をやめませんでした。そこで割愛して、紙で作ったまるい囲いの中にいれてやりました。そのまましばらくなんの変化もありませんでしたが、夜になると茶色い液状の糞をピュッとして、間もなく卵を産みはじめました。
▲産卵中の蚕:なんで囲いが必要かっていうと、この囲いがないとどこまでも歩きながら卵を産んじゃうからです。囲いに入れると内側だけで卵を産みます。
メスは二頭いますが、二頭とも同じ時刻に交尾させたので、産卵もほぼ同じタイミングではじめました。この規則正しさは神秘的ですらあります。
産卵は一晩つづいて、28日朝にはもうそろそろ終わりかな、という状態になりました。こうなると、もう役目は終わり。このあと何日か生きつづけますが、餌も食べないし、空を飛ぶこともないし、弱って死んで行くだけです。
そうそう、書きわすれていましたが、お蚕は、成虫になっても空を飛びません。たまに原始的な品種で不器用に飛ぶのもいるらしいですが、たいていの品種は飛びません。歩き回る力も弱く、ザルか何かの上においてやると、蓋をしなくても逃げようとはしません。交尾する相手も自分では探しにいけないのです。何から何まで人が世話してやらないといけない虫です。いくら飼いならされたからといったって、こんなに何もできない虫がよく存在するものだなと思います。