ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

ショウリョウバッタについて

 ウィキペディアに、ショウリョウバッタのことを、ショウジョウバッタとも言うこと、「霄壤」という字をあてて、雌雄の大きさが天と地ほども違うことが由来だと説明されているの見て、それが本当ならば『和漢三才図会』あたりに何か書いてあるんじゃないかと思い、読んでみました。以下『和漢』と略します。『和漢』は江戸時代初期の日本で作られた百科事典です。現代語訳は平凡社東洋文庫によります。

ショウリョウバッタとおぼしき記述

 螽斯は長さ二寸ばかり(約6cm)、青色で尖った首、長い脚に毛がある。露眼(とび出た目)で、眼と眼の間はたいへん狭く、眼の側に二つの硬い髭がある。小児はたわむれに両足をとらえて、「お前、機を織れば放してやろう」というと、股を屈め、俯き仰きして機を織るのに似た状をする。

 この説明は、あきらかにショウリョウバッタ(ショウジョウバッタ)のものだと思います。わたしも子供の頃に、ショウリョウバッタの脚をつかまえて「機をおれ」と言ったものです。中国語の難しい呼び名がいくつか出てきますが、ウィキペディアにある「霄壤(ショウジョウ)」に関連しそうな事は書かれていませんでした。同時に「精霊(ショウリョウ)」に関する事も書かれておらず、いつごろからそんな呼び方になったのかなあと、不思議な気がします。

 なお、この時代の人はショウリョウバッタのオスとメスを別の生きものだと思ってた可能性があります。上記の説明はたぶんオスについての説明です。「蟿螽」という別の虫についてとして次のような説明があります。

 蟿螽、俗に波太波太という。思うに蟿螽とはイナゴの属で、長さは三、四寸(約9〜12cm)。身体はたいへん痩せていて、首は方形で額の両方に目がある。目の上に二つの髭がある。翅は灰赤色で、黒点がある。腹の下は白く、よく跳んで捕らえにくい。『本草綱目』に螽斯に似ていて細長いものを蟿螽という」とあるのはこれである。

 首が四角いとか、翅が灰赤色で黒点があるとか、悩ましい説明があって断言はしきれませんが、12cmもの大きさになるバッタというと、日本ではショウリョウバッタのメスじゃないかと思います。ここにも「精霊」「霄壤」どちらに関する説明もありません。


ショウリョウバッタの機織りを撮影した自作の動画です。

オンブバッタのことを言ってるらしい記述

 せっかくだから、オンブバッタらしきものの説明も読んでみます。これには蠜螽という字をあてて、ネギまたはハンシュウと読ませています。ハンシュウが音読みで、ネギは神主さん(禰宜)に似ていることからつけられた日本の呼び名のようです。

 蠜螽は螽斯(はたおり)に似ているが小さく長さ一寸ばかり(約3cm)。青色で尖った首。両眼の間は広い。蠜螽は両眼の間は狭く、ここが異なっているだけである。首は立烏帽子(たてえぼし)をつけた状に似ている。それで俗に禰宜(ねぎ)と呼ぶ。小児が両足を捕らえると、身を伸ばして首を俯き仰きさせ、稲をつく状に似ている。それで和名を稲舂(いねつき)という。その翅の下は薄紫色をしている。

 ショウリョウバッタのオスと、オンブバッタは似ているので、昔の人が正確に見分けていたかは難しい問題ですが、目の離れ方が違うんだと書いているので、見分けてた人もいるみたいですね。ただ、身体の大きさが3cmっていうのはちょっと小さいかな、と思います。別のバッタである可能性も否定できません。

 また蠜螽の別名として、舂黍という中国の呼び名をあげて「しょうしょ」と読ませています。舂は春ではなくて下が臼で「つく」という意味ですから、米をつかせる遊びに関係する呼び名のようです。

 もし「しょうしょばった」という言葉が日本で一般に知られていたとしたら、ショウショウバッタと訛った上で、ショウリョウやショウジョウに変化してもおかしくないな、と思いました。ショウリョウバッタとオンブバッタはしばしば取り違えられるので、名前に混同があってもおかしくありません。ただ「しょうしょばった」なんて言葉が一般に流布してたかどうかあやしいので、自分で書いてて、かなりこじつけくさい説だと思います(笑)