ミハルスとは一体なんなのか
小学校で教材としてカスタネットをもらった人は多いと思います。赤と青の色分けで、紐がゴムになっているやつです。わたしの子供の頃は「カスタネット」と呼んでいました。
ところがですね、以下の質問によると、あの赤と青の色分けでゴムがついているアレを「ミハルス」と言うらしいんですよね。千葉みはる(男性です)さんという、音楽教育の偉い人が開発して、自分の名前にちなんで命名したそうです。
なぜ「ミハルス」が青と赤に塗色されたのかについて調べています… - 人力検索はてな
正直言うと、ミハルスなんて呼び方は初めてききました。今までカスタネットとしか呼んでいなかったので、へぇって感じです。
そこで、質問にもある赤と青の色分けも含めて興味をもったので、国会図書館に調べものに行きました。読んできたのは以下の本です。
>『ミハルス教本―拍ち方と踊り方 千葉みはる創案』昭和13年版と、1949年版
>上田友亀 著『音楽教育講座 第3巻・簡易楽器の作り方と指導法』1952年
そして、驚くべき事がわかったのですが、ミハルスは、わたしたちが知ってるようなゴムでしばってあるカスタネットとはぜんぜん違うものですよ?
千葉みはる・上田友亀 両先生の本にでてくるのは、上の図のようなものです。木切れを二枚、マドレーヌみたいな形に切り出して、内側にくぼみをつけます。これを「蝶番で」くっつけて、ぱくぱくするようにします。どっちかの木切れの先に鋲(びょう)を打って、打ち合わせた時にカチカチ鳴るようにします。上と下の木に、ゴムとかリボンとかで、指をはめる部分を作ります。ここに指をはめて、片手でぱくぱくさせると、音がなります。
カスタネットをもとにして考案したのは確かなんですが、蝶番部分にゴムだのバネだのは使っていないので、世間で言ってるように、「ミハルスは通常口を開いている状態であるため、ただ閉じるだけで音が鳴り、勝手にまた開く(ウィキペディア)」なんてことはまったくありません。木切れを結んでいるのはただの蝶番(ちょうつがい・ちょうばん)です。両先生の本に、ほとんど同じ絵が書いてありました。指をはめる部分の形状が少し違うくらいです。
ミハルスは、ほんとにわたしたちが知ってる楽器ですか?
全然違うんじゃないですか?
上の図のようなミハルスを、千葉みはる先生が考案したことは間違いないようです。先生自身が書いた『ミハルス教本』の昭和13年(1938年)版と、1949年版を両方とも確認しましたが、どっちもミハルスの形状についてはまったく同じことが書いてあり、1949年の段階では改良されたなんてこともなさそうです。みはる先生の本には色についてはなんの記述もありません。
上田友亀さんの本は、そういった楽器を自作するための本なので、塗装についても言及されているのですが、「墨で黒く塗ってもいいが、茶粉(ちゃこ)を塗ってもいい」という意味のことが書いてあるだけで、赤と青に塗り分けるようなアイデアはまったく書かれていませんでした。
今のところ、わたしの考えででは、現代の子供たちが使っている赤と青に塗り分けられたカスタネット状の楽器は、ミハルスとはまったく別のものだということです。
ここから先は想像ですが、上田友亀さんが、最初は本当に千葉みはる先生のミハルスを作っていたんじゃないでしょうか。後に今わたしたちが知っているような、ゴムで結ぶタイプのものを考案して売り出すとそっちが主流になってしまったのかもしれません。同じ人が売っているので混同されたか、ミハルスの改良版としてゴムで結ぶタイプのものを作ったか、どっちかの理由で呼び名が混乱しているのではないかと思います。
しかも、その混乱は少なくとも1952年より後に発生したものだと考えます。上田友亀さんの『簡易楽器の作り方と指導法』には、スペイン式のカスタネットや、棒の先についているカスタネットについても説明がありますが、ゴムで結んで口があいているのがデフォルトになるような工夫は、この本にはまだ載っていないからです。
裏をとるなら上田友亀さんご本人に聞くしかないですね。赤と青に塗り分けるのを考えたのも、上田さんっぽい気がします。
[追記]この件に関してはコメント欄も読んでください
プラス白桜社さんという楽器を作っている会社の方が、カスタネットを赤と青に塗り分けたのはうちです、と教えてくださいました。上記の上田友亀さんとは関係がないようです。# コメント欄にて「上田さんのご子息が友亀さんが発明したと証言してる」という情報をいただきました。とにかくコメント欄にも目を通してください。
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