ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

ミツバチ・マアヤの冒険

蜜蜂マアヤ

蜜蜂マアヤ

価格:693円(税込、送料別)

 図書館で実吉捷郎・訳の『ミツバチ・マアヤの冒険』という本を借りました。1951年初版で92年に岩波少年文庫復刻版30冊として出たものです。翻訳に関しては上記広告の本(岩波文庫版)と同一と思いますが、完全に同じかどうかは未確認です。少年文庫版の挿絵は長沢節

 アニメ『みつばちマーヤの冒険』が放映された頃にめくって見た記憶はありますが、突然思いついて改めて読み直しました。

 今読むと、なかなか味があって良いですね。虫たちが自分の人生を語る物語ですが、擬人化されすぎておらず虫の性質がよく出ているように思います。マアヤをつかまえたジョロウグモに対して「おかみさん」と呼びかけるなど、作者のボンゼルスは自然にそうとうの興味があったものと考えられます(そこいらでよく目立つ大きな巣を張っているクモはたいていメスなので)。

 ところが、翻訳と挿絵がおかしなことになっています。

自称ハナムグリのかぶと虫がミミズを食べる?

 作中に何度か「かぶと虫のクルト」が出てきますが、彼は自分のことを「ハナムグリ*1」と称しており、薔薇の花の下で暮らしています。ところが、実際にはミミズなどを捕まえて食べる糞カブト虫で、ナメクジからも馬鹿にされているのです。

 おそらくクルトはオサムシかハンミョウのような肉食の甲虫(こうちゅう)なのでしょう。しかし、自分の醜い生活史を恥じて、美しいハナムグリのふりをして暮らしているのです。

 甲虫類を「かぶと虫」とゆるく総称することはあるので誤訳とまでは言いませんが、カブトムシという種類の虫もいますから非常にまぎらわしい翻訳です。

 その罠にはまったのが挿絵画家の長沢節さんです。氏は昆虫に興味がなかったのでしょうか、クルトを角のある立派なカブトムシに描いてしまいました。そのため本来樹液しかなめないであろうカブトムシがミミズを襲って食べているというシュールな挿絵が掲載されています。

 こんな挿絵がついていたら「ほかの虫からさげすまれる汚い虫が美しい虫のふりをしている」というのが本来の設定はどこかへすっとんでしまい、「カブトムシのような紳士が人知れずミミズを殺して食べる猟奇事件をおこし、ついでにハナムグリのふりをしている」ということになりかねません。

夜の蝶が昼の蝶をうらやむ話、なぜか挿絵はアゲハ(昼の蝶)

 また、マーヤが花の妖精と出会い、人間のところへ飛んでいく途中で「蝶」に出会います。その蝶は自分が昼の蝶とはちがい灰色で醜いことを嘆いています。その場面に添えられているイラストは、あきらかにアゲハ類のシルエットです。それがクロアゲハであっても「灰色でみにくい」などということはありませんし、何よりアゲハ類は「昼の蝶」ですから、てんでおかしな話です。

 マーヤが出会った「夜の蝶」は蛾の一種でしょう。日本では蝶と蛾を呼び分けますが、呼び分けない国が多々あり、蛾は夜活動する種が目立つので「夜の蝶」と呼ばれることがあります。

 蛾の一種にアゲハモドキというのがいて、蛾でありながらアゲハそっくりですが、アゲハにそっくりなら「昼の蝶とは違い灰色で醜い」などと嘆いたりはしないでしょうから、この場合はもっと地味な、一般には名も知られぬ蛾の一種を想像するのが適当です。

*1:花粉を食べる甲虫(こうちゅう)。ミミズを食べたりはしない。