ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

インディアンに囚われた白人女性の物語


1996年初版

 十七世紀〜十八世紀のアメリカで、インディアンに捕虜にされたふたりの女性、ローランソン夫人とジェミソン夫人の体験記。ローランソン夫人は牧師の妻で、ジェミソン夫人は囚われた当時子供だった。

 アメリカにはインディアンに囚われた人の体験記がけっこうあるそうだが、この本に収録された二つの手記は対照的な例をチョイスしており、とても興味深い。ローランソン夫人は夫が牧師であり、信心深く、白人で清教徒であるという価値観で、インディアンを野蛮な異教徒としか見ていない。牧師の妻という立場柄、信仰を強調し、異教徒は野蛮だという方向になっているけれど、一般の人も案外こんなだったかもしれない。

 一方ジェミソン夫人はというと、もちろんインディアンによる誘拐の被害者であることは間違いないが、単純に捕虜としてではなく「失った家族の代わり」としてインディアンの家族に迎えられている。ジェミソン夫人はインディアンとして育てられ、大人になり、インディアンの男性と二度も結婚している。白人世界にもどるチャンスがあったにもかかわらず、インディアンとして暮らすことを選んでいる。そういった「白いインディアン」は少なくなかったらしい。

 この本に出てくるインディアンは、ネイティブアメリカンというよりは、西部劇の世界に出てくるインディアンだ。白人からは野蛮人扱いをされ、実際戦いになれば文明社会では考えられないような残虐性を見せたりする。酒に酔えば暴れ(その酒はヨーロッパ人が持ち込んだのだが)、昔の西部劇のように、倒した敵の頭の皮をはぎ、捕虜を火あぶりにしながら奇声をあげて踊り狂う、そんな姿が描かれている。

 その反面、家族や仲間に対する誠実さも描かれている。ジェミソン夫人の例のように、目の色も肌の色も違う「敵」の子供を、殺された自分の子の代わりとして受け入れる柔軟さは興味深い。

 昔の人が書いたもので、良くも悪くも脚色されている可能性はあるが、西部劇の一場面だったインディアンと白人のかかわりを、ぐっと身近に感じられる一冊。