ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

マハーバーラタ

 ナラ王物語の章を読みました。マハーバーラタは、主にパーンドゥの五王子の話なんですが、彼らの先祖の話とか、逆に子孫の話も出てくるし、ナラ王みたいに五王子と境遇の似た人の物語も出てきます。

 アルジュナが天界でパパ(インドラ神)と再会してる間に、他の四人&妻のドラウパディーは森である聖者に会いました。五王子たちはイカサマばくちで国をとられて森に追放されたわけですが、聖者が言うには、かつてもっとひどい境遇に落とされた人がいたというのです。それがナラ王。

 ナラ王は、ダマヤンティーという美しいお姫さまと結婚の約束をしていますが、姫があんまり美しいので天界の神々までもが結婚を申し込んでいました。神々を怒らせたくはないし、かといってナラ王のことも忘れられないというので、姫はお父さんの王様にたのんで婿選びの祭り(スヴァヤンヴァラ)を開いてもらいます。

 スヴァヤンヴァラで、ナラ王と姫は正しい信仰と愛を見せたので、神々も満足してふたりの結婚を祝福しました。ところが、二人のサイコロの神が遅れてやってきて、神々をさしおいてダマヤンティーを射止めたナラ王に嫉妬しました。そこで、ナラ王の弟にとりついて、サイコロの勝負をしかけます。神がついているので弟が馬鹿勝ちして、とうとうナラ王は妻と一緒に国を追い出されてしまいました。

 ナラ王と妻は、それぞれ一枚の衣だけをまとって森を彷徨っていました。以前は国民に愛された王でしたが、新しく王座についた弟がナラ王を助けてはならないとお触れを出したので、誰も二人を助けませんでした。

 しかも、ナラ王はひょんなことで鳥に衣を奪われて丸裸になってしまいます。仕方なく妻と一緒に一枚の衣にくるまって歩きはじめますが、王は自分がもはや立ち直れないものと絶望して、妻に実家に帰るように言いました。けれども妻はがんとして聞きません。父の国へ帰るなら、あなたも一緒よ、と返事をしますが、ナラ王は最後に残ったプライドから、妻の父親に頼ることだけはできないと言います。

 このシーンは非常に泣かせる場面です。ナラ王は自分が死ぬか、妻を捨てるかで悩みます。森の中で妻を置き去りにすれば危険はあるかもしれない。しかし、運良く実家に帰れれば自分と一緒にいるよりは幸福になれるだろうと考えます。そこでダマヤンティーが眠っている隙に、衣を半分に裂いて、何度も振り返りながら自分だけ去って行くのです。

 その後、ダマヤンティーは夫を探して各地を彷徨いますが、ある国の王妃に気に入られて女中として仕えることになりました。王妃には自分が生き別れの夫を探していることは伝えましたが、自分の身分は隠していました。

 ナラ王はというと、山火事から龍を救うのですが、その龍が恩返しだと言って毒牙で王を咬みます。そのせいで王は醜い男に変身してしまいますが、龍は不思議な衣を手渡して、必要な時にこれを身に付ければ元に戻れると言いました。ナラは身分を隠してとある国で王様の御者として仕えることになりました。

 一方、ダマヤンティーの実家では、行方不明になった娘とその夫の行方を探していました。ある苦行僧がある国の王妃に女中として仕えているダマヤンティーをみつけます。苦行僧が王妃にダマヤンティーの身分を語ると、なんとその王妃はダマヤンティーの母親の姉妹にあたる人でした。

 こうしてダマヤンティーは実家に帰ることができたのですが、いまだに夫の行方がわかりません。そこで彼女は苦行僧たちを集めて「賭博師よ、私の衣の半分を切って、あなたはどこへ行ったの?」という詩を各地で触れ回るように言いました。

 もちろんその詩は姿を変えたナラの耳にも届きます。ナラは思わず苦行僧を呼び止めて、別れる前にダマヤンティーに言った言葉を返歌として伝えます。自分の本当の名は証さずに。

 それがきっかけで最終的に二人は再会します。最後には失った国も取り戻して幸せに暮らすのですが、『ナラ王物語』はいい話なので興味がある方は是非読んでみてください。

原典訳 マハーバーラタ〈3〉 (ちくま学芸文庫)

原典訳 マハーバーラタ〈3〉 (ちくま学芸文庫)

↑わたしが今読んでいるのはこれです。

ナラ王物語とサーヴィトリー姫物語―古代インドの叙事詩

ナラ王物語とサーヴィトリー姫物語―古代インドの叙事詩

↑ナラ王物語のところだけ独立させて本にしたものもあります。

ナラ王物語―サンスクリット・テクスト、註解、語彙集、韻律考ほか

ナラ王物語―サンスクリット・テクスト、註解、語彙集、韻律考ほか

↑ナラ王物語はサンスクリットの初級・中級用の読本としても有名なので、こんなのもあります。