ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

ジョン・スノウは水道に塩素を入れたか?

水道水に塩素を添加して消毒するようになったのは何時からでしょ… - 人力検索はてな
 上記質問で、わたしは英語が苦手であるにもかかわらず、英語サイトを検索し、ジョン・スノウというイギリスの医師が1854年ごろに水道水に塩素を入れることでコレラを撃退したと書いてしまいました。それについて、id:meefla さんが「スノーが塩素消毒した、と言い切っているウェブページはいっぱいあります。でも裏付けになる記述が見つからないんですよね」と教えてくれました。

 そこでわたしはジョン・スノウについて調べるべく、以下の本を斜め読みしました(熟読すべきなのですが、外国人の文章は癖があるので関連すると思われる部分のみ注意して読むことにしたのです)。

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 タイトルが探偵小説みたいですが、著者はジャーナリストで詳細な資料をもとに書かれたノンフィクション小説です。原題は「医学博士ジョン・スノウとコレラの謎」


 1800年代、インドで発生したコレラが、1831年にはヨーロッパに到達し、遂にはイギリスをも襲いました。当時はまだコレラの原因が細菌だとは知られていません。それどころか細菌学がまだ発達しておらず、多くの学者は疫病が悪臭によって起こると信じており、たとえば皮革業者など作業に悪臭を伴う業者が病気を蔓延させていると避難されるような状態でした。

 しかしジョン・スノウはコレラの原因が飲み水と関係することに気づきます。1949年の夏、アルビオン・テラスと呼ばれる通りでコレラが発生しましたが、その一角をとりまく他の通りには被害がありませんでした。

 スノウが調べたところ、アルビオン・テラスはビヤ樽排水とあだ名される上水道から水を供給されており、その水は各家の裏手にあるタンクに溜められていましたが、そのタンクの近くには便所の汚物槽があり、タンクの水に汚物が混ざっていたのです。

 しかし、汚物が混ざった水が原因であるというスノウの主張は長いこと無視され続けました。
 1854年の夏、この年もイギリスでコレラが大流行します。スノウは被害のある家と、ない家をまわり、その家がどの水道会社と契約しているかを調べました。

 当時イギリスには私立の水道会社が複数ありましたが、スノウはコレラを発症した家はある特定の水道会社と契約している事実を突き止めることに成功しました。(このとき水道会社を特定するのに聞き取り調査だけでは仕事がはかどらないので、水中の塩分濃度を計ることを思いつき、水のサンプルに硝酸銀溶液を混ぜて塩分濃度を計ったというエピソードがあります。これはあくまで塩分濃度を測るためであって消毒とは関係がありません。)

 また、副牧師のホワイトヘッドの聞き取り調査によって、ブロード・ストリートの井戸水を使っていた地域でコレラの被害がひどかったこともわかります。スノウはそれが井戸水のせいだと主張しますがやはり人々は納得しません。しかし、スノウの要請に従って、井戸水の使用をやめてみると、コレラの被害がピタリと治まったという伝説があります。(この時彼がしたことは、井戸の取っ手を外すして水を汲めなくすることであって、消毒とは関係がありません。)

 こうしてやっと、コレラが瘴気(悪臭)ではなく汚染された飲み水によって伝染することが認知されました。コレラ患者が飲んでいた水道水や井戸水は、みななんらかの形で汚物が混入していたのです。


 …という具合で、『医学探偵ジョン・スノウ』には、スノウが水道水に塩素を入れた話はまったく出てきませんでした。(ユーアという別の医師が1931年(?)にインドなどコレラが発生している国から来る船の積み荷を塩素ガスによる薫蒸で殺菌する方法を思いついた話は出てきます。)

 わたしはこの本が「ジョン・スノウが水道水に塩素を入れた」という説の発信源じゃないかと思っていたのですが違いました。少なくともこの本にはそういう話は出てきません。何か別の出典があるんでしょうね。

 ジョン・スノウは、コレラの原因をつきとめたことでも有名ですが、近代麻酔学の父でもあります。ビクトリア女王の出産に立ち会い、麻酔で痛みをやわらげた話もこの本に出てきます。話の進め方に外国人特有の癖はありますが、読み始めるとそれなりに面白く、イギリスの庶民が当時どんな環境でくらしていたのか、コレラについて当時どんな治療法があったのかなど、注目する点の多い本です。