ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

この苦しみ死んで永遠にしてくれようかい、課長さんよぉ

 係長も課長も警察全体から言えば中間管理職。その苦しみ、わからんでもないが、わかってやるわけにはいかんのだよ。あんたたちは減俸なり左遷なり解雇で終わるかもしれないけどね、わたしの人生に解雇はないの。あるのは死、ただ死んで終わりにするだけよ。

 あなたたちがどうしても来ないっていうなら飲むわ、この薬。そんでもってビニール袋をかぶって窒息死するのよ、おーーほほほほ。

 とかなんとか言ってたら、Tまで一緒になって「よし薬飲んでやれ。目の前で飲んだら少しはわかるだろ」とか言い始めまして、やー、ずいぶんキレたキャラになったもんだね、Tくんも。

 それはともかく、こねーんですよ課長。ぜーんぜん来ないの。わたくしなんかデパス0.5mg錠を軽く三錠(一日分)くらいかじって「よっしゃ、次の薬は苦いから噛まないで飲むぞ。給湯室逝ってくるぜ!」ってなもんで、給湯室から湯飲みとお水借りてきちゃいました。Tは必死で「課長が来てからにしろ」と止めてたけどね。目の前で倒れるのも、倒れてからあわてて来るのも同じようなものだよ。Tよ、お前がしっかりしておけばよいのだ。

 話の流れとは関係あるようでないけど、課長を待ってる間にTとした話。
「わたしー、実は車にはねられたことがあるのよー」
「えー、マジで?」
「マジで、マジでー。尻にあたって10メートルくらいすっとばされてー。でも膝からついて手をついたので頭とか打ってなくてー、子供だから体やわらかいので骨も折れなくてー、ぜんぜん大丈夫だったのよー」
 それは幼稚園の頃。園の帰りに友達と友達のお母さんとわたしの三人で一緒に歩いてて、わたしは道をわたらなきゃ家に帰れないので「じゃ、またねー」って渡ろうとしたの。ちゃんと右も左も見たつもりなんだけど、すぐそばを歩いてる人とかが影になって車が来るのは見えなかったのよ。
 はねられた瞬間はぜんぜん覚えてなくて、ふと気づいたら膝小僧すりむいてるの。近くに白いセダンが止まってて、中からあわてふためいた男の人が出てきて、
「大丈夫?」
っていうから、わたしはつい、
「うん、大丈夫」
って答えちゃったわけよ。
 そしたらその男、そのまま車に乗って逃げやがったのね。そりゃまあ、わたしはたしかに大丈夫だったんだけど、そりゃねーだろひき逃げだーってことになったわけよ。
 いっしょにいた友達のお母さんって人もきっと大あわてだったと思うんだけど、この人はあわてても心のどこかが冷静でいられる人だったのよ。その証拠に、お母さんは車の色とナンバーを詳細に覚えておいて警察への届け出に協力してくれたから。
 そのとき家に帰ったわたしはどうなったかっていうと、そりゃ一発目は「無事でよかった」だったけど、二発目は「なんで大丈夫だなんて言ったんだ」でしたよ。ナンバーがわかっていたのでひき逃げ犯はその日のうちにつかまって
「大丈夫だっていうからつい……」
ってなことを言ったから。わたしが大丈夫だって言ったから逃げてもいいと思ったんだと。それで、ひき逃げは刑事事件だと思うんだけど、ふつうの事故として示談にしたのね、わたしも実際どうってことなかったし。
 いちおう、足だの頭だののレントゲンとかとってみたけど異常もないし、わたしは伊勢崎病院という地元でいちばんでっかい救急病院に三日通って足の傷に薬をぬってもらっただけでおしまい。三日目には歩いて家に帰ったくらいなもんでした。

「それでー、そのとき自分が悪くても悪くなくても、事故の時には大丈夫とかゴメンとか言ったほうが負けだってことを知ってしまったわけよ。それが小ずるい大人のやり方を熟知した子供の第一歩だったってわけなのね」
「やな子供だなー」
「そうよ、やな子供なのよ」

 そんでもって、あわてふためいてお見舞いに来た園長先生の真似とかしたり、園まで様子を見に来た犯人さん(いちおう誠意あり)に、園長先生が「ほら、ここのところにまだアザがのこってるのよ!」って言いながらわたしのおしりをむいて犯人に見せた話とかしてたと思います。わたしはひき逃げ犯に尻を見られた女なの。当時はロリコンとかなかったから、子供の尻くらい普通に見せて平気だったかもだけど、わたしはわりと自我が発達しちゃってるお子様だったので、この出来事はわりと深いトラウマになって、他人に話せるようになったのって実は大人になってからなのだよ。

 そんな話をしながらも、わたしはガンガン薬飲み続けたわね。そこへ川崎カカリチョーが帰って来て、
「課長はやっぱり……あっ、そんな薬飲んでいいやつですか」
ってビックリして、ぎゃははは、やっと気づいたか。
「いいわけないでしょ〜。次、ウィンタミンいってみまーす」
 赤くて小さな錠剤、ぼこぼこ飲みまくり。課長大あわてで「やめろ」って薬を奪おうとするから、
「やめてください! これわたしのですよ。それを取るんだったら窃盗です!!」
 川崎さんったら本当はいい人なのかもね。これ言われてビビって薬返してくれたもん。
「こんな具合だから、きちんと原因を取り除かないと治りません」
 Tが援護射撃して(その調子だ)、わたしは
「ほかにももっと薬持ってるんだもーん」
とか言いながら、鞄のポケットに隠しておいたリスパダールを三錠くらい一気のみ。ちなみにこれ、一錠で倒れます。それ見て川崎さんはあわてて課長を呼びに行きましたとさ。

 そのあとのことはよく覚えてないのよ。わたしはまもなくぶっ倒れたし、机につっぷしてうーんうーん言いながら、おぼろげながらに課長が入って来たこととか、課長じゃない人も来てあやまってたこととかは覚えてるんだけど、話の内容までは記憶にありません。

 話がひとだんらくついたらしく、Tは「また来ます」とかいいながらわたしを担いで車にのせて、最初は6号ぞいのジョナサンで何か飲ませようとしたらしいんだけど、リスパダールを三錠も飲んでたらお茶なんか飲めませんやね。ひとくちだけすすったのは覚えてるけど、あとはまた店から担ぎ出されて家にかえり、布団も敷かずにフローリングの床に倒れてそのまま熟睡。目が覚めたのは14日の午前三時。Tもすでに寝てた。

「めがさめたー。食られるかどうかわかんないけど食べないと薬抜けないから何かたべたい。でも歩けないから自分ではかいにいっけませーん」

 そう宣言してTをたたきおこし、近所のセブンイレブンにお弁当買いに行かせてしまいました。何がいいって聞かれたから「セブンイレブンには照り焼きハンバーグ弁当以外に食べられるものはない」と答えた記憶あり。実際あそこの弁当は幕の内みたいなのが多くて心おどらないんだもの。ローソンかサンクスだったら色々ありそうなのに、近くには711しかないのよ。

 それからお弁当を半分くらい食べて、お茶飲んで、再び爆睡。目が覚めたのは14日の午前六時。まだ薬は残ってたけど、これ以上は眠れそうもなかったので起きることにしました。いつも通り早起きさんでーす。

 というわけで13日分はおわり。