ネタ袋

不思議なことや、勉強になりそうな事を書きとめておくブログで、かつては日常の記録としても使われていたことがありますが、これからは不思議な話等をごくごくたまーに更新するかもしれません。

ラプンツェル

 毎年5月頃に、近所の土手に小さな花が一面に咲き乱れる。花は五弁で色は薄青く、青というよりは限りなく白に近い。葉の付き方などから、ナデシコ科かオミナエシ科か、そこらへんの何かだろうということは想像は付くが名前がわからない。つい先ほどまったくひょんなことから、この植物がグリム童話で有名なラプンツェルのことだと知り、軽いめまいを感じている。


 和名はノヂシャ(野萵苣)。チシャといってもキク科のレタス(萵苣)とはなんの関係もないオミナエシ科の植物だ。原産地はヨーロッパで、江戸時代に長崎で栽培されたのが野生化した帰化植物だそうである。学名は、ぱっと調べた限りではValerianella locustaとするものと、Valerianella olitoriaとする資料があるが、同名の異種なのか、同種の異名なのかわからない。外国のサイトを検索するとどちらも rapunzel と呼ばれているようだ。
 グリム童話ラプンツェル』は『髪長姫』というタイトルでも有名であるが、母親が妊娠中に隣に住む妖精の庭に生えるラプンツェルを食べたいと思い、父親が盗んできて食べさせたことが妖精に知れ、盗みの代償として生まれた子供は妖精のものになる。赤ん坊はラプンツェルと名付けられ、高い塔のてっぺんに幽閉されて育った。ある日とおりがかった王子と恋に落ち、自らの長い髪を紐のように垂らして王子を呼び込み逢瀬を楽しむようになる。ラプンツェルが王子の子を宿したことを知ると、妖精は彼女の髪の毛を切り塔から追い出した。恋人に会いに来た王子は妖精に塔から突き落とされて失明する。
 こういった童話のお約束として、もちろん結末はめでたしめでたしとなるのだが、それはさておき、植物のラプンツェルは性の悪い妖精が庭で栽培しているものにしては不似合いなほどに可愛らしい花である。それに、たいして珍しいものでもなさそうだ。これならそこいらじゅうに生えていただろうに、なぜラプンツェルの母親は、こんなものをわざわざ盗んでまで食べたがったのか。
 Rapuncel の語源はラテン語の rapuncium から来ていると説明している日本語のサイトを見つけた。外国語のサイトも検索してみると、ra-puncium ← radice puntium で ヴァレリアの根っこの意味ではないかと書いている人がいた。
 残念ながら puntium をヴァレリアと結びつける根拠を今のところ見いだせずにいるのだが、もしこれを信用するなら、ヴァレリアというのは和名はセイヨウカノコソウという植物のことで、ノヂシャと同じくオミナエシ科の植物である。写真で見る限り、花はノヂシャに似ているが葉の形が違い、背丈もノヂシャよりずっと高くなる。その香りはマタタビのように猫を引き寄せる効果があるとか。そのため魔女が使うという伝説があるようだ。ノヂシャにはこの植物に似ていることから魔術的なイメージが投影されているのではないかと想像する。ヴァレリアの根っこ説を棚に上げておくとしても、考えてみればノヂシャの小種名である valerianella は ヴァレリア(valeriana)の小さいものという意味なので、この二種の植物が似たようなものとしてイメージの世界では深く結びついていることは間違いない。他にも何か伝説がありそうな気がするので今後も注目してみたい。
 なお、ノヂシャはハーブとしての名前をコーンサラダという。ほのかにナッツ系の香りのする草だということだ。隣家で盗むまでもなく土手に生えているので来年の春には食べてみようと思う。