トム・ソーヤーと昆虫
尺取り虫
露に濡れた木の葉のうえを緑色の小さな虫が、ときどき体の三分の二を空中にうかして、「あたりの様子をうかがい」、それからまた這い進んだ。トムによれば、その虫は尺度を計っているのだ。虫が自分の意志で近づいてきたとき、トムは石のようにじっと坐っていたが、虫が彼のほうへ這ってきたり、あるいはどこかよそのほうへ行きたいようすを見せたりするたびに、彼は希望に燃えたり、希望をうしなったりした。そして、とうとう虫が曲がった体を空中にのばして一瞬ためらってから、はっきりトムの足にとりつき、彼の体をつたわって這いはじめると、トムは、ぞくぞくするほどうれしくなった−−というのは、それは新しい一揃いの服−−しかも、すばらしく豪華な海賊の服が手に入ることを意味するからだ。
テントウムシ
茶の斑点のあるおばさん虫が目もくらむほど高い草の葉によじのぼった。トムはその虫をのぞきこんで声をかけた。「おばさん虫、おばさん虫、飛んで帰れ、お家が火事だ、子供がひとりで泣いてるぞ」おばさん虫は、さっそく飛んで行った。しかしトムは、すこしも驚かなかった。というのは、この虫が火事のことでだまされやすいのは、とうに知っていたし、トムは、これまで何回もその愚かさを試したことがあるからだ。
- 作者: マーク・トウェイン,Mark Twain,大久保康雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1953/10/30
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 25回
- この商品を含むブログ (16件) を見る