最後なので記念に小ネタを
稲川淳二の冬の怪談も今日で締め切りということで、記念に小ネタを。
子供というのは信じやすいもので、ときおり不思議なことを言い始めます。私の小学校時代の友達は古い木造の家に住んでいましたが、その家には誰もあけたことのない部屋があるのだと言ってました。いわゆる開かずの間というやつです。友達が言うには、その部屋には幽霊が住んでいるから誰も開けないのだというのです。
私は何度かその子の家に遊びに行って、開かずの間の前まで行きました。その部屋には黒光りする古い木の戸がついていて、鍵がかかっているのか押しても引いても開きません。たいした作りのものではありませんから蹴破れば簡単に開くでしょうが、そんな野暮なことはいたしません。あの家には開かずの間があるんだってと人に話したいので末永く誰も開けずにおいてほしいと思いました。
それから数年後、友達の家は新築するために取り壊されました。当然のことながら開かずの間も白日の下にさらされたわけですが… 何のことはない、ただの納戸だったみたいです。開けたことがないのは当時小学生だった友達だけで、家の人たちはふつうに出入りしてたそうです。
私の友達はかくも思いこみの激しい少女でしたが、ある時みんなで普段あまり行かない公園に行ってみることになりました。家から離れているので滅多に行かないところです。ちょっとした冒険気分でした。
たどり着いてみると、そこは広いだけで遊具もろくになく、あまりおもしろい場所ではありません。公園の一角に、それほど大きくはない建物がありました。正面に観音開きの大きな扉があり、鍵穴がついています。
そこでくだんの思いこみ少女が建物に近づいて、鍵穴から中を覗きこみました。古くさいサスペンス小説のような展開です。彼女はそういうことを平気でするのです。そして必ず自爆する。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
思いこみ少女が悲鳴をあげて尻餅をつきました。
「骨がある。中にガイコツがいる!」
そうらきた。いつもこの調子です。
誰も本気にはしませんでした。でも、思いこみ少女が「ほんとにガイコツが見える」と主張するので、グループの中でもリーダー格の女の子が、鍵穴に目をつけて中を覗きました。
その子は鍵穴に目をつけたまま、しばらく何かを見ているようでしたが、やがてくるりとこちらを向いて一言。
「…なんかいる」
それからはもう大変です。一緒にいた友達が、われもわれもと鍵穴を覗きこんで「ほんとにいる。ガイコツが立ってる」なんてことを言い出します。
私もおそるおそる鍵穴を覗いてみましたが、残念ながらその鍵穴は建物の中まで貫通してはおらず、何も見えませんでした。
子供にありがちな思いこみといえばそれまでなんですけど、その公園、あとで調べたら「平和公園」っていう名前なんです。ガイコツが見える建物は、どうも戦没者と関係のあるものらしくて… ええと、私もよくは知らないのですが、身よりのない戦没者の遺骨を納めた納骨堂じゃないかって話を、ずっとあとになって人から聞きました。
そういう場所でガイコツを見るのは、はたして思いこみか、偶然か、それはよくわかりません。ただ、そういうことがあったという記憶だけが、やけにはっきり残ってます。
そういうわけで、怪談でした。参加者は少なかったけど、それでもいろんな人の怪談を読めたし、おもしろかったなあ。各賞の発表は 1月14日だそうです。優秀な作品には稲川淳二のサイン本その他が贈られるってことですよ。今日いっぱい受け付けてるみたいなので、隠し球を持ってる人はまだ間に合いそうなのでトラックバックしてみてね。